192 第181話【前編】


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Sep 20 2024 11 mins   11


ここは金沢駅隣接のマンションの一室。必要最低限の通信機材とパソコンが配されたそこには、それを操る通信員と武装した男達が所狭しと待機していた。
ベネシュを頭とするトゥマンは部隊を何個かに分けて、この場所に到着した。1時間前のことである。
当局が民間人を金沢駅周辺から事前に避難させるようだとの情報を入手したベネシュは、その混乱に乗じて部隊の内3名と、現地協力者の7名でもって商業ビルで威力偵察を仕掛けるよう命令を出した。
公安特課や自衛隊が混乱に対してどういった対応をするかを事前にある程度把握するためである。

「避難行動が始まったら、出口である1階は混乱する。そこで発砲し、当局がどう捌くかを見極めろ。特に外国人に対する避難誘導の手際を知りたい。その際、避難民にけが人が数名出ると良い。怪我の程度は軽傷だ。それに関する対応の状況も見たい。」

作戦の意図を示してベネシュはトゥマンの中から3名選抜した。チームαと名付けられた彼らは現地協力者と共に任務のため商業ビルへと向かっていった。

予定通り商業ビル1階で彼らは発砲した。それにより商業ビルから既に避難誘導されていた民間人はパニックを起こし、蜘蛛の子を散らしたようにそこから逃げ出してきた。

「デルタ、デルタ。こちらアルファ。」
「アルファ、こちらデルタ。」
「作戦成功。民間人のけが人2名確認。」
「当局の様子はどうか。」
「予期せぬ事で混乱している。しかし落ち着いている。ただし外国語が話せる要員がいないのか、外国人観光客の誘導に手こずっている。」
「よし、アルファはそのまま商業ビルに留まれ。ビルの7階は映画館だ。パニックのため上階に移動した外国人観光客を装って移動されたい。」
「了解。」
「移動後は当局の様子を再び監視し、こちらに不審を抱くようだったら排除せよ。」
「了解。アルファ、行動に移る。」

それから10分ほど経過してαから無線が入った。

「デルタ、デルタ。こちらアルファ。」
「アルファ。こちらデルタ。」
「ビルの7階に来た。我々を追って警察官がやってきた。当方協力者の通訳によると、このビルには爆発物が仕掛けられている。次なるテロも予想される。すぐにここから退去せよと言っている。」
「警官はひとりだな。」
「ひとりだ。」
「言葉が分からないふりをして、適当にあしらえ。」
「あ、いやまて。女が通訳を買って出てきた。」
「女?」
「民間人だ。警官の通訳をしている。…こっちが言うことに流暢な英語で反論してくる。」
「民間人か…面倒だな。」
「ここで民間人の犠牲が出るのは好ましくないと思うが。」
「静かにさせろ。ただし殺害はするな。」
「了解。」

5分ほど経っただろうか。ベネシュはアルファの様子を確認するよう指示した。

「アルファ、アルファ。こちらデルタ。現場で何が起こっている。」

アルファからの応答はない。
ここでベネシュは別の班であるデルタに商業ビルの様子を報告するよう求めた。

「デルタ、デルタ。こちらガンマ。アルファは全滅した模様。」
「ガンマ。こちらデルタ。全滅…だと…?」
「はい。」
「全滅とは。」
「全員射殺された模様。」
「SATか。」
「わかりません。制圧には閃光弾が使用された模様。」
「閃光弾なんか使うのはSATくらいだろう。」
「自衛隊の線もあるかと。」
「制圧部隊は。」
「確認できません。現場にはアルファからの無線にあった、民間人らしき人間が確認できます。」
「民間人だけ?」
「はい。この男女二名しか確認できません。退去を促していた警官はどうやら死亡したようです。」
「ガンマはそのまま待機。現場周辺の監視を怠るな。」
「了解。」

無線を終えるとベネシュは部屋のソファに腰をかけ、両手で頭を抱えた。

「誰の仕業だ…。」
「デルタ、デルタ。こちらガンマ。」

ベネシュが対応した。

「ガンマ。こちらデルタ。どうした。」
「現場に一名合流。先の二名の民間人と話している。」

高齢の民間人が合流したようだとデルタからの報告だ。

「ここから見るに先の二名とこの老人は顔見知りのようだ。」
「警察の動きは。」
「相変わらず警察の姿は見えない。」